職人採用の答え?スマホ解約でも若者が集まる宮大工の養成塾
結論:職人採用の勝ち筋は「条件」ではなく「仕組みとしての育成環境」
今回の動画は、神奈川県相模原市で寺社建築と新築住宅を手がけ、あわせて宮大工の育成にも取り組む工務店を小倉が訪ねた回です。YouTube経由で相談が寄せられたことがきっかけだと動画内で語られており、お寺の新築現場、そして宮大工を志す若者が暮らす養成塾の寮の内部までカメラが入っています。
職人採用の話になると、多くの工務店は給与・休日・寮の有無といった条件面の勝負に持ち込みます。ところが動画に映っていた養成塾の環境は、その真逆でした。朝4時半起床、スマホは入塾時に解約、娯楽品の持ち込み禁止、私物は与えられた3段ケースに収まる着替えだけ。それでも全国から宮大工になりたい若者が集まっていると語られています。
動画全体から、住宅・リフォームが主戦場の工務店にも持ち帰れる論点は次の3つに整理できます。
- 採用は条件比較ではなく「環境の設計」で差がつく——何を与えるかより、どんな毎日の型を用意しているか。
- 一人前になるまでの期間を、会社の損失ではなく投資に変える仕組みがある——育成期間そのものを仕事として成立させる発想。
- 技術は、発信しなければ市場に存在しないのと同じ——動画内でも、技術をどう広げるかが相談の中心になっています。
背景:育成期間の「3年」が、人手不足の正体になっている
動画のなかで社長は、宮大工は入ってから3年ほどは「会社から見るとほぼ生産性のない人への投資になってしまう」と語っています。さらに現代では、せっかく3年投資しても離職してしまうことがあり、それが業界全体の構造的な課題になっている、と。
これは宮大工に限った話ではありません。地域工務店でも、大工・現場監督・設計の若手が一人で現場を回せるようになるまでには相応の年数がかかります。その期間を「我慢して抱える人件費」と捉えるか、「設計された育成プログラム」と捉えるかで、採った若手が残るかどうかは大きく変わる——動画はその差を、極端な事例で見せてくれる内容になっています。
動画で紹介された養成塾は、この課題に対して「宮大工の養成を通じて地域の神社仏閣を再生する」という形を取っていると説明されています。つまり、見習い期間を社内コストとして閉じ込めず、地域の建物を直すという実需とセットにしている。育成が同時に仕事になっている構造です。全国に7校舎ほどあり、神奈川校は現在2名、対象は中学・高校を卒業した16〜18歳が中心だと語られています。
現場で見た宮大工の仕事——「誤差0.3mmも許されない」世界
動画の前半は、実際に工事中のお堂の現場です。完成した建物を見学する機会はあっても、建てている途中の新しいお堂を見られることはまずない、と小倉も驚いています。
印象的なのは、社長が「宮大工はこの曲線に命をかけている」と語る屋根の反りです。曲線を見れば誰が作ったか分かる、時代によって様式が違い自分は中世(鎌倉期)の曲線を好んでいる——そうした話が現場で語られます。放射状に配置された垂木が一本ずつ勾配を変えながら反り上がっており、それをすべて計算して手加工していると説明されています。
精度についても具体的な数字が出てきます。動画内では「0.3mmの誤差でも許されない」「手仕事で10ミクロン、20ミクロンの神経を使う」と語られ、通常なら取り付け時に調整できるよう材を長めに残すところを、今回は生産性を優先して墨付け通り一発で加工する判断をした、結果1mmも狂わなかった、と振り返られています。
木そのものの話も出ます。年輪が細かいほど良い山で育った木であること、1本で1500万円ほどする材もあり、刃を入れるときの感覚は「人間でいう医者みたいなもの」だということ。丸柱は八角形→16角形→32→64と削り進め、最後にそのRに合う丸鉋を自作して仕上げるため、塗っていないのに驚くほど滑らかになる——そんな工程も紹介されています。
価格感も会話のなかで語られました。
| 動画内で語られた内容 | 金額・数値 |
|---|---|
| お堂1棟を通常仕様で建てた場合 | およそ2000万円 |
| 同じお堂2棟分 | およそ4000万円 |
| 斗組や垂木をさらにこだわった場合 | 6000万円規模になることも |
| 大規模な堂宇 | 億単位になり、その重圧に耐えられない職人もいると語られています |
| 加工精度 | 誤差0.3mmも許されない/10〜20ミクロン単位の感覚 |
あわせて社長は、宮大工は技術力に注目が集まりがちだが、実際に必要なのは忍耐力・探求心・メンタルだと話しています。採用・育成を考える経営者にとって、ここは重要な示唆です。選ぶべき資質が「器用さ」ではないと明言されているわけです。
なお現場では、長年の付き合いがあるというお寺の住職も出演されています。十数年前、雨漏り修繕の際に深夜2時3時まで仕事を仕上げていた姿を見て「この人は育てなければいけないと思った」という趣旨のお話が語られており、独立前の最後の仕事がこのお寺だったことも明かされます。技術の継承が、結局は人と人の信頼の上に乗っているという話として聞ける場面です。
養成塾の一日——4時半起床、スマホは解約、私物は着替えだけ
動画の後半は、養成塾の寮です。壁に貼られた生活ルールをもとに、一日の流れが紹介されます。
- 4時30分 起床
- 5時前後 食事づくり(ご飯と味噌汁)、弁当づくり。食前のお経をあげてから食事
- 7時 太鼓が鳴り、神棚の前で職人の信条を唱和し、般若心経をあげる
- 8時〜17時 実際の神社仏閣の現場で作業
- 夜 自習室で刃物を研ぎ、技を磨く。就寝は21時
唱和される信条は、動画の冒頭と最後に実演されています。「自己紹介をしっかりとできる人から仕事があります」「大きな声ではっきりと挨拶ができる人から仕事があります」——これを毎朝、山に向かって爆音で叫ぶのだと語られています。技術論ではなく、仕事が来る人の条件を毎日声に出す。採用・教育の順序として、ここは工務店にもそのまま移せる発想です。
スマホを解約させる理由も語られています。今は良い情報も悪い情報も大量にあり、宮大工の修業は自律と日常の習慣化、刃物を研ぐといったことに時間を集中投資しなければならない。だから余計な情報は必要なく、むしろ「愛だと思って持ってこないでください」と伝えている、という説明です。保護者も、理由をきちんと説明すれば納得し、自立を促す教育として歓迎してくれることが多いと話されています。
一方で、情報を全部断っているわけではありません。自習室にはiPadが置かれ、研ぎ方などをオンラインで学べる仕組みがあると紹介されています。遮断するのはスマホという「開いた窓」で、学習に必要な情報は用意する。この線引きが設計されている点が見どころです。
仕組みで人を育てる——チェックリスト、罰金、カメラ、そして日記
寮の運営は、精神論ではなく仕掛けで回っています。動画で紹介されたものを整理します。
| 仕掛け | 動画で語られた中身 |
|---|---|
| 場所ごとのチェックリスト | キッチンなどに掲示。誰がどこまで掃除したかを記録 |
| 電気の消し忘れ | 滞在している全員が100円を入れる。集まったお金は神社に寄付 |
| 掲示による可視化 | キッチンが汚れていれば、その状態が貼り出される。出しっぱなし1回でも掲示 |
| カメラ | 寮内の各所に設置。動画内では「7個ぐらい」と語られています |
| 私物の制限 | 持ち込みは着替えのみ。与えられた3段ケースに娯楽品があれば処分 |
| 部屋割り | 当初は1人1部屋だったが、こもりや寝坊が出たため2人1部屋に変更 |
注目したいのは、部屋割りを「変更した」という事実です。個室にしたら機能しなかったので2人部屋に戻した。ルールが運用の結果で書き換えられている、つまり仕組みが生きている証拠です。
さらに社長自身の修業時代の日記も公開されています。約7年分あり、うまくいかなかった時期の記録や技のノートも残っている、と。自分が通った道を資料として残し、塾生が読める場所に置く。属人的な背中ではなく、読める形の教材にしているということです。
興味深いのは、この寮の設計思想が家づくりの提案にもつながっていると語られている点です。塾生の部屋はコンパクトで、自社の家づくりでは子ども部屋を3畳以下・窓なしにするよう提案しており、間取りだけでも暮らしは変わると話されています。賛否はあるでしょうが、「自社の思想が商品に一本で通っている」という意味では、差別化の作り方として参考になります。
相談の論点:素晴らしい技術を、どう市場に伝えるか
動画の入り口で小倉は、今回の訪問の目的を説明しています。この工務店は従業員規模は大きくないものの、SNSからの集客があり、翌年の受注まで埋まっている状態だと語られています。相談の中身は「今うまくいっている先」です。これから何を伸ばし、どこへ向かって会社を大きくしていくのか。宮大工という文化を土台に、どういう発信をしていくべきか——そこを一緒に考えたい、という依頼だったと説明されています。
あわせて、他社から提携や新会社設立の打診があったものの断ったというエピソードも触れられています。報酬や足並みの違いがあったのだろうと小倉は推測しつつ、建築や工務店の現場を分かっていない人が「この技術を広げましょう」と言っても噛み合わない、だからこそ工務店の現場を知っている相手と組みたいのではないか、という見立てが語られます。
ここは多くの工務店に当てはまる構図です。技術力に自信があるほど、それを翻訳して市場に届ける作業は後回しになる。動画内で小varrogaれる悩み——「自社の独自技術を活かしてもっと広げたいが、どうしたらいいか分からない」「今はうまくいっているが2年後3年後をどうするか」——は、むしろ好調な会社ほど抱えやすいものです。
明日からやること
動画の内容を、住宅・リフォーム主体の工務店が実務に落とすなら、次の順序が現実的です。
| やること | 具体的な一歩 |
|---|---|
| ①育成期間を可視化する | 若手が一人で現場を回せるまで何年・いくらかかるかを紙1枚で出す。「我慢」を「投資計画」に変える |
| ②育成が仕事になる案件を作る | 地域の小規模改修・地元施設の修繕など、若手が主役で回せる案件枠を意図的に確保する |
| ③毎日の型を1つ決める | 朝の唱和でなくてよい。「全員が大きな声で挨拶する」「朝礼で自己紹介を1人ずつ」など、仕事が来る人の条件を毎日反復する |
| ④精神論をチェックリストに置き換える | 片付け・工具管理・清掃を担当者と項目で掲示する。守られなかったときの扱いも先に決めておく |
| ⑤情報の線引きを決める | 現場でのスマホ運用と、学習用タブレット等の提供を分けて設計する |
| ⑥先輩の記録を教材にする | ベテランの判断理由・失敗事例を書き残し、若手が読める場所に置く |
| ⑦自社の強みを言語化して発信する | 技術そのものではなく「なぜそうするのか」を発信軸にする。現場写真より工程と理由が刺さる |
よくある質問
宮大工のような特殊技術がない当社でも、参考になりますか
なります。動画で効いていたのは技術の希少性そのものより、毎日の型・可視化・記録という運営の仕組みでした。これは新築でもリフォームでも移植できます。むしろ特殊技術がない会社ほど、「残る理由」を環境側で作る必要があります。
スマホ禁止のような厳しいルールは、今の若者に通用するのでしょうか
動画では、理由をきちんと説明すれば保護者も納得し、自立を促す教育として歓迎されることが多いと語られています。ポイントは厳しさの度合いではなく、理由が語れるかどうかです。理由のないルールは反発を招き、理由のあるルールは納得を生む——真似すべきはそこで、スマホ解約という形そのものではありません。
一人前になるまでの期間を投資と言われても、そんな余裕はありません
だからこそ、育成期間が同時に売上になる案件設計が要になります。動画の養成塾は、見習いを通じて地域の神社仏閣を再生するという形でこの課題に向き合っていると説明されていました。自社であれば、小規模改修やメンテナンス案件を若手の実践枠として位置づけるのが現実的な第一歩です。
まとめ
職人採用を条件競争として戦うと、資金力のある会社に勝てません。今回の動画が示していたのは、条件では最も不利に見える環境でも、理由の語れるルール・毎日の型・可視化された記録がそろえば、人は集まり、育ち、残るということです。そして育った技術は、発信されて初めて市場価値になります。見学したお堂の曲線が「誰が作ったか分かる」ものであるように、自社の仕事にも固有の線があるはずです。それを言語化して外に出すところまでが、経営者の仕事と言えるでしょう。
続きや実際のやり取りは動画でご覧ください: YouTubeで動画を見る
なお、発信や記録の仕組み化まで手が回らないという場合、工務店×AIの実務は、AI業務代行『マルオくんAI』(株式会社ウィズモー提携)に丸投げできます。
監修:株式会社ウィズモー(工務店の事業促進・社内改善支援)
